2020年11月29日日曜日

症状のない高血圧準緊急症をどのようにマネジメントする?

 急性の高血圧症は重篤なものとして以下が知られている

 高血圧緊急症

 高血圧準緊急症(高血圧切迫症)

急病センターで「少しだけ頭が重たい血圧 210/128mmHgの高齢女性」が来て対応に悩んだので勉強しなおしてみました。

今日の記事で勉強できること
 ・高血圧準緊急症に対する治療のEvidenceはあまりないが、下げるのであれば血圧はBP 160/100mmHg以下くらいを目標に内服降圧薬を行うことを検討する。患者の心血管・脳血管リスクなどにより判断していくしかない。
    ★Uptodateは比較的下げることを推奨しているような記載
    ★American College of Emergency PhysiciansやJournal of Hospital medicineではあまり下げないことを推奨している。
 ・クロニジンやカプトプリルのような短時間作用型が使われることが多いが、アムロジピンのような長時間作用型を選択するDrもいる。


★高血圧緊急症(Hypertensive emergencies)とは
 
BP 180/120mmHgを超えて以下のような臓器障害を伴うものを高血圧緊急症という

関連する臓器障害は
心血管が50%くらい
脳血管/脳症が全部で40%くらい
やっぱり心臓か脳なんですね。


症状ない高血圧の時にどこまで検査するか悩みますよね。。。

高血圧準緊急症(Hypertensive urgencies)とは
 BP 180/120mmHg以上で軽度の頭痛を除いて、臓器障害を伴わないもの

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

ここからは高血圧準緊急症についてのお話です。
結局のところHigh qualitiyなエビデンスはなく、あくまでも筆者らの推奨


血圧をさげるかどうかは非常に悩ましい
救急外来にくるような無症状の重度高血圧症の患者の降圧は有効性が証明されていない。静かな部屋で30分寝かせておくだけで30%の患者が20/10mmHg以上さがる
降圧で虚血が起こることもあるので、結局はリスクベネフィットを勘案して決める

ここまでの前提をもとに

Up to dateでは
基礎に高血圧がある場合など含めて、どちらかというと血圧を下げることを検討するような旨の記述がされている。大動脈瘤や脳動脈瘤があることがわかっている患者などは積極的に降圧する。ニフェジピンの舌下投与はすべきでない(アダラートの脱カプセルですね!)。下げるならBP 160/100mmHg以下くらいを目標に、ただし最初の数時間で平均動脈圧が25-30%以上は下がらないように注意する。使う薬は使う薬剤はクロニジンまたはカプトプリルのような短時間作用型が好まれる。ただしアムロジピンなどの長時間作用型を使うDrもいる。
 処方例
 ★カプトプリル     6.25-12.5mg p.o.
 ★ニフェジピンCR 30mg p.o.
 ★メトプロロール  50mg p.o.

American College of Emergency Physiciansでは
検査に関してはLevel Cの推奨として①ルーチンの臓器障害のスクリーニングは不要、②フォローアップが出来なさそうな人の場合には主に腎機能のスクリーニングを検討(それが入院させるかに影響することがある)とされ、治療に関してはLevel Cの推奨として①ルーチンでの投薬は不要、②フォローアップが出来なさそうな人の場合には慢性の高血圧の治療の一つとして長時間作用型での治療を検討、③いずれにせよ外来でのフォローは必要とされています。

Journal of Hospital medicineでは
基本的には病歴、身体所見のみで大丈夫で検査がいることは限られたケースのみ。臓器障害を疑う所見がなく無症状の場合には安心させ安静にさせて再度アセスメントするべし。rapid actingな降圧薬の内服や静注降圧薬は使用しないように。外来でコントロール不良な高血圧がある場合や高血圧として治療されていなかった患者の場合には慢性期の治療として長時間作用型の降圧薬を検討する


フォローについて
 数時間外来でフォローしたのち、帰宅できるケースが多い。
 治療するにしてもしないにしても、かかりつけや自院での翌日の受診を強く促す


まとめてみた感想としては
とりあえず救急外来で高血圧準緊急症をみたら

 静かなベッドに30分-1時間安静に横になってもらい再検査
 それで大丈夫ならばフォロー方法を決めて帰宅
 だめならベースに高血圧あるか、コンプライアンスどうか、出血梗塞リスクなどを検討しリスクベネフィットをよく勘案して治療するか決める


あとがき
いやー。かなり見る文献によって印象が違いますね。どこまでも悩ましいんだなと思いました。投与するならやはり僕はアムロジピン2.5mgの内服を出すことが多い気がします。ベースに高血圧ない人は抗不安薬を投与することもありますが、抗不安薬といったものは記載があまりありませんでしたねー。


参考文献
Up to date:Management of sever asymptomatic hypertension
日内会誌 104:268-274,2015
Hypertensive emergencies CCSAP 2018 Book1 Medical issues in the ICU
J. Hosp. Med. 2018 December;13(12):860-862
Ann Emerg Med. 2013;62:59-68.










2020年11月22日日曜日

虫垂炎は手術なの?保存的なの?

 

N Engl J Med. Nov 12; 383(20):1907-1919

この論文のポイント

・30日後のEQ-5Dスコア(QOLスコア)は両群で同等であった。
・抗菌薬グループは合併症が多(8.1% くvs 3.6% RR 2.28; 95%CI 1.30-3.98)、29%が90日以内に最終的に手術された。
・合併症は抗菌薬グループで多かった(2.28;95%CI 1.3-3.98)が、重篤な合併症は抗菌薬グループで4%、手術グループで3%(RR 1.29; 95%CI 0.67-2.50)であった。


論文を読む前にUptodateの推奨を確認すると
 穿孔していない症例で、耐術能に問題がない場合は手術を推奨
 耐術能に問題がある場合は、点滴抗菌薬で開始して改善すれば保存、しなければ手術


試験デザイン
救急病院において、虫垂炎を抗菌薬加療群と手術群の非盲検、非劣勢のRCT
Inclusion criteria
 ・画像検査で虫垂炎と確定診断された18歳以上
 ・回盲部炎は合併症のリスクが高いことが知られており、Prespecified subgroup(事前に知らされたサブグループ)に分類された。

Exclusion criteria
 ・敗血症性ショック
 ・汎発性腹膜炎
 ・虫垂炎再発者
 ・重度の炎症がCT上あるもの(術者が広範な手術が必要と判断したもの)
 ・膿瘍形成/free air
 ・悪性腫瘍が疑われる


試験に参加した患者は平均38歳、やや男性が多い。
並存疾患はほとんどない人たちで、80%がCTで診断されている。

Primary outcome
 ・EQ5DスコアというQOLスコアの非劣勢

Secondary outcome
 ・患者から聴取した疼痛、発熱などの症状の改善
 ・NSQIPに定められた合併症の発症

治療
抗菌薬加療群
 ・最初の24時間は経静脈的に抗菌薬投与、以降は内服として計10日間
  ※手術は経過中に以下を認めた場合に推奨された。
    ・汎発性腹膜炎が疑われる    
    ・敗血症性ショックになる
    ・治療開始後48時間以降に症状や所見の悪化がある
    ・必ずしも上記を満たさなくても手術になる症例も認めた

手術療法群
 ・腹腔鏡下もしくは開腹での手術が行われた


結果
Primary outcome ITT解析されている

QOLスコアは抗菌薬群、手術群で有意差なし。
症状がとれるのは30日まで見ても両群であまり変わらないらしい。

抗菌薬治療群での手術の累積実施割合。
圧倒的に最初の48時間以内が多くてそれ以降はあまり増加しない

Secondary outcome

重篤な合併症に関しては両群で差がみられない(1.29;95%CI 0.67-2.5)
NSQIPに定義される合併症は抗菌薬群で多い(2.28;95%CI 1.3-3.98)
膿瘍ドレナージを要した症例が抗菌薬群で多い(21.36;95%CI 2.86-159)


論文を読んだ感想
虫垂炎に関しては、局所炎症がひどくない場合や穿孔などがなければ抗菌薬での保存的加療が選択でき、QOL的には手術群と大差ない結果だった。
抗菌薬治療群の方も最終的に手術に29%がなっているので、3人に2人は手術を回避できるということだろう。ただ、合併症などは抗菌薬治療群の方が多い傾向にあるのも悩ましいところ。




2020年11月21日土曜日

Semantic Qualifierを使いこなせてますか?

このチャプターのLearning point
・Semantic Qualifierを知ろう
・患者さんの訴えや病歴を、鑑別のフレームに落とし込める「言葉」
にしよう。
・鑑別診断の「フレーム」を意識して、Semantic Qualifierをうまく使えるようになろう。

George Bordageさんが提唱した概念で
"抽象的で、対義的な言葉を使って、患者情報をまとめるて整理する"こと。
患者さんの訴えや情報などを普遍的な(抽象化して)、そしてなるべく対のあるような言葉に置き換えること。
鑑別診断や疾患の想起の際のキーワードとなるものを当てはめていく作業になる。
臨床推論の質を高めるとされていて、診断の正確さが有意差はないものの増加する傾向があるとされる。

例えば言葉で言うと以下のようなものがある(対になってるのがポイント)
高齢    vs     若年
急性    vs             慢性
持続性   vs             間欠性                 
単発性   vs             多発性
繰り返す  vs             初めての
安静時   vs             労作時
e.t.c…



たとえば、痛風を考えている患者さんのプレゼンをしてみると、

Semantic Qualifierを意識していないと
「前にも同じ症状があった、78歳女性が昨日から左足の親指の付け根が腫れて痛いことを主訴に受診した。」


なんかぼやけてますよね。Semantic Qualifierを意識してやると
「これまで同様の間欠的な発作を繰り返す高齢女性が、昨日からの急性発症の左第一趾MCP関節の単関節炎で受診した」


「間欠的⇔持続的」「繰り返す⇔単回の」「急性発症⇔緩徐発症」「単関節炎⇔多関節炎」
こういったwordを意識します。

このSemantic Qualifierを意識したプレゼンテーションをされると、"痛風"以外の鑑別をあげることがむつかしいですね。そして「"急性"の"単関節炎"」の鑑別というフレームになるので鑑別も考えやすくなりますね。逆に言うと、どういったワードで鑑別のフレームを作るのかという覚え方も大事かもしれません。

ぜひぜひ使ってみてくださいねー。
鑑別診断のフレーム法は森川先生の「総合内科 ただいま診断中!」もとっても勉強になりますので読んだことない人はみてみるとよいですよー。

参考文献
日本内科学会雑誌 106 12 2562-2567など
Medical Education.2002, vol.36,p 760-766
Acad Med 1998, 73(Suppl19):S109-S111
横浜医学, 69, 37-45(2018)
N Engl J Med 2006;355:2217-25.
Principles and Practice of Case-based Clinical Reasoning Education, Innovation and Change in Professional Education 15, Chapter 3

記事記録
2020.11.21 update

2020年11月14日土曜日

低Na血症の補正はボーラス?持続?

 

この論文のポイント

 3%食塩水のボーラス投与による有症候性の低Na血症の補正は
 3%食塩水の持続投与による補正に比べて

  ・過剰補正のリスクが少ない傾向にあった(有意差なし)
  ・1時間後の血清Naの補正値の上昇幅が5mEq/Lに近かった
  ・患者背景としてSIADH20%程度しか含まれていない
  ・採血のタイミングが治療介入後1hr6hr12hr18hr24hrと間隔は広めで
   過剰補正のリスクは持続投与群の方が高かったと思われる。


論文について

Openラベルの前向き多施設のRCT

Inclusion criteria:
18歳以上で、血糖値補正の血清Na 125mmol/L以下で以下のも
Moderate symptoms             :嘔気、頭痛、眠気、脱力、倦怠感
Sever symptoms                  :嘔吐、昏迷、痙攣、昏睡

 

Exclusion criteria:
心因性多飲、授乳中もしくは妊婦、無尿、ショック、肝障害(正常の3倍以上)、非代償性肝硬変、HbA1c 9%以上の糖尿病、心臓手術の既往、OMISVTACS、頭部外傷・頭蓋内圧亢進が3カ月以内にあるもの。

原因としては
 サイアザイド利尿薬が20-30%
 hypovolemic hyponatremia 10-15%
 細胞外液量増加が10%前後
 副腎不全 12-17%
 SIADH 25%程度

Moderate symptoms 65%程度、Sever symptoms 20%程度。
治療開始は救急外来もしくは通常外来がほぼ100%

患者のNaは平均118mmol/L程度、尿浸透圧 440mOm/kg程度。

治療介入:
治療開始1,6,12,18,24,30,36,42,48hで採血と症状の評価を行い、以下の表のように介入。

Rapid intermittent bolus (RIB group)

Moderate symptoms             :3% saline 2mL/kg20分かけて投与を1
Sever symptoms                  :3% saline 2mL/kg20分かけて投与を2  

上記ポイントのところでNa補正値と症状の程度によりBolusを追加
過剰補正だった場合は下げる治療を行う
24時間までで症状がとれて5mmol/L以下または30-38時間までで症状が取れて10mmol/L以下の補正の人をどうしたかは明確な記載なし


Slow continuous infusion (SCI group)


Moderate symptoms             :3% saline 0.5mL/kg/hrで投与
Sever symptoms                   :3% saline 1mL/kg/hrで投与
上記の測定ポイントのところでNa補正値と症状により、infusion rateを足りなければup、目標範囲内であればstop、過剰補正であれば下げる治療を行う。

 

Primary Outcome


過剰な補正は両群で15-22(17-24%程度), ARR -6.9(-18.8-4.9)程度で、ややRIB groupの方が少ない傾向ではあったが、差は見られなかった。グラフは青い線がRIB group

 

以下はsecondary outcomeから


RIB groupの方が1時間後の補正の幅が大きく5mEq/Lに近く上がっているのが特徴で、
6時間くらいのところで変わらず、その後はSCI groupの方が高い値をキープしている。
最初の1時間の投与量が大幅に違う。


この論文を読んでの感想
自分自身は持続投与で教えられて育ってきたのでどうしても持続投与しがちだけども

最初の一時間を持ち上げるのはやっぱりボーラス投与の方がいい。
過剰補正のリスクも高くなさそう。
もう少し細かく採血していけば過剰補正のリスクは持続投与でも下げられそう。


2020年11月8日日曜日

Outputは最強の学びのツール 読書「アウトプット大全」

 精神科医 樺沢紫苑さんの著書の「アウトプット大全」を読んだのでご紹介


この本から学んだポイント

・inputよりもoutputを多めに。2週間で3回同じことをoutputすると記憶として定着

・手書きの方がやっぱり記憶に定着しやすい

・目標ではなくビジョンを掲げよう

・Outputしている自分へのフィードバック効果が高い


これまで読書をしたり、論文を読んだりとのインプットは結構意識してやってきましたが、この本を読んでアウトプットの大事さを再度気が付かされました。

レクチャーをしたり、人に教えたりというのは、一見他人のために見えますが、一番勉強になり・フィードバック効果があるのは実は自分だったりしますよね。

この本にはOutputの方法がたくさん書かれています。記録の残し方、書評の書き方、話し方、ほめ方、フィードバックの仕方、情報発信の仕方などなど。

inputがメインだった方は一度読んでみると目からうろこがあるかもしれません。

このブログを始めるきっかけになった一冊で、読み直してみてやはりおすすめの一冊でした。


2020年11月3日火曜日

慢性腎不全におけるDapagliflozinの有効性とは

 

N Engl J Med 2020;383:1436-46.

Dapagliflozin(@フォシーガ)はCKD患者のアウトカムを改善するか?

この論文のポイント
・CKD患者における10mg/dayのDapagliflozinの投与は次の複合アウトカムを改善する(HR 0.61,95%CI 0.51-0.72)(eGFRの50%低下、末期腎不全(透析、eGFR 15ml/min/1.73m2以下、腎移植)への進行、腎臓もしくは心血管関連死亡)。
・CKDの基礎疾患に糖尿病の有無は関係ない。基本的に研究参加患者はACEiもしくはARBを先行して内服している。1型DM、ANCA、SLE、免疫抑制剤使用中の腎炎患者は除外されている。
・試験はアストラゼネカのスポンサードを受けているが、2.4年の経過で有意差があり中止となっている。

研究デザイン
・Double blind placebo controlled study
・試験対象者は
  eGFR 25-75ml/min/1.73m2 かつ 尿中Alb 200-5000mg/gCre
  4週間以上ACEiもしくはARBを内服しており安定している状態
  SLE、ANCA、PCKD、1型DM、免疫抑制剤の使用者は除外
・Dapagliflozin 10mg/day内服群とプラセボ群にrandomに振り分け
・Primary outcomeは複合エンドポイントで以下のいずれかの発症
  eGFRの50%低下
  末期腎不全(透析、eGFR 15ml/min/1.73m2以下、腎移植)への進行
  腎臓もしくは心血管関連死亡
・ITT解析されている

患者背景
平均年齢61歳、男性が70%くらい。アジア人40%くらい。
収縮期血圧は135±17mmHg、eGFRは30-45ml/min/1.73m2が一番多く40%程度
尿Alb 1000mg/gCre程度
心不全があった人が10%程度

結果




Composite outcome HR 0.61(95%CI 0.51-72)、NNT 19

感想
製薬会社のスポンサーを受けているとはいえ、死亡を含む腎不全患者におけるHard outcomeとおもわれるoutcomeの複合エンドポイントの大幅な減少がみられ、NNT 19!!、糖尿病関係なし!!というのは非常に大きな結果なのではないだろうか。

心不全、腎不全、2型糖尿病などの領域においてSGLT2阻害薬はゲームチェンジャーとなるのかもしれない。