2020年10月30日金曜日

カテコラミンは末梢ルートから安全に投与できるか

 

Am J Emerg Med. 2020 Sep 28;S0735-6757(20)30842-1.
(pre proof版)


末梢カテーテルからカテコラミンは投与できるか?
本論文のポイント
・末梢カテーテルからのカテコラミン投与の合併症率は8.6%(95%CI 3.1-21)
・合併症の大部分(96%)はminorなもの
・ノルアドレナリンで0.13γ程度が最も高容量
・末梢からの投与時間は平均25時間程度(min 9.7時間~max 49時間)
・末梢のルートは太いゲージの方が合併症率は低い傾向がありそう

論文について
2020年2月までにPebMed、EMBASE、Scopus datebaseで報告されている末梢カテーテルからのカテコラミン投与に関する論文のSystematic reviewおよびMeta analysis。325の論文がヒットして、最終的には9つの論文、1835人の患者を対象とした。


平均年齢は63歳、女性が48%含まれていた。
ショックの原因としては6割程度が心原性ショックであった。

合併症の定義
minor complication :extravasation, infiltrations, cellulitis, thrombophlebitis
major complication :ischemic limb, necrosis of tissue, venous thrombosis



使われていたゲージ数の割合
18ゲージ 33%、20ゲージが56%、22ゲージが7%
ゲージが太い方が合併症のリスクが低い傾向にあった。
カテーテルの留置部位ではあまり差がなかった

最終的には
minor complicationとして
全部で117件の合併症があり、infiltration 72%, erythema 21%であった。

major complicationとして
5件の合併症があり、すべてperipheral venous thrombosisであった。

Pre proof版であることに注意が必要だが、末梢のカテーテルからのカテコラミン投与は1-2日以内、なるべく太いゲージ、ノルアドレナリンで0.1-0.15γ程度であれば安全に使用できるものと思われる。
論文中でもCVCアクセスの確立には64分程度かかるとの報告も引用されており、Septic shockでは早期ノルアドレナリン使用が推奨されてきていることも含めて、末梢からの投与は重要な選択肢となるのだろう。
ただ、末梢から投与する場合には血管外漏出や壊死の化膿性などを事前に話しておく方が無難なのかなと思いました。

2020年10月25日日曜日

髄液蛋白細胞解離(Albuminocytological dissociation)に出会ったら

 腰椎穿刺して髄液の蛋白細胞解離があったときにどんな疾患を考えるか。

(BMJ Open 2019;9:e025348. doi:10.1136/ bmjopen-2018-025348)

髄液蛋白細胞解離のポイント

 ・髄液蛋白 45mg/dL以上、細胞数陰性&血糖正常で拾い上げよう

 ・鑑別診断のメインは多発神経炎、脳炎/脳症、腫瘍、脳梗塞、痙攣

 ・良性の頭痛や精神疾患でも起こりうることを認識


★髄液たんぱくの正常値

髄液は通常ではBlood-CSF barrierによりほとんどが漏出しない。

CSF Protein: 23-38mg/dL


★髄液蛋白細胞解離の定義

あまり明確なものはないようだが、髄液蛋白 45mg/dL以上、髄液細胞正常の際を蛋白細胞解離とされているので目安になると思われる。


★髄液蛋白が高値になる疾患は(今日の治療指針より)

・髄腔内に出血があり、血漿蛋白が混入した時

 脳出血、SAH、脳腫瘍、外傷、硬膜下血腫など

・血液脳関門障害があり、血漿蛋白が髄腔へ移行した時

 髄膜炎、脳脊髄腫瘍、ギランバレー症候群、脳梗塞、多発神経炎など

・中枢神経系でIgGの産生が亢進するとき

 多発性硬化症、神経梅毒、ヘルペス脳炎など

・髄液のターンオーバーが障害されたとき

 脊髄腫瘍


★蛋白細胞解離となる鑑別




かなり多彩な疾患で起こることがわかりますが

多いものとしては

 ・多発神経炎

 ・腫瘍

 ・脳炎/脊髄炎

 ・痙攣

 ・脳梗塞 

 ・炎症性白質病変

 ・良性の頭痛

 ・Transient encephalopathy/neurological symptom(一過性の脳症/神経症状?)

 ・わずかだけども精神疾患でも上がることもある(0.6%)とされている


★参考までにギランバレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013に記載されている髄液蛋白細胞解離の鑑別

 AIDP/CIDP

 DM性多発ニューロパチー

 急性間欠性ポルフィリア

 アルコール性ニューロパチー

 中毒薬剤性ニューロパチー(鉛、ヒ素、ビンクリスチンなど)

 POEMS症候群

 アミロイドニューロパチー

 異染性白質ジストロフィー

 クラッペ病

 悪性新生物の脊髄転移

 神経鞘腫

 など


髄液蛋白細胞解離というと"脱髄疾患"みたいな簡単な枠組みしか覚えていなかったがかなり多岐にわたる疾患が想定されないといけないようだ。腫瘍や梗塞をみのがさないというのも非常に大切だとわかった。

※紹介した論文では髄液細胞数 5×10の6乗以上、髄液赤血球数 50×10の6乗以上、髄液糖 2.5mmol/L以下、18歳以下は除外されている。