2020年12月27日日曜日

By systemでのカルテの書き方とプレゼンテーション


 

今日の記事でわかること

・重症患者さんのカルテの書き方とプレゼンテーションの仕方

・普段のSOAPとは違った、By system=臓器ごとに患者さんを診ていくやり方。意識→呼吸→循環→。。。と患者さんの状態を整理しよう。重症患者さんの把握と集中治療医との状況の共有をスムーズに行えるようになろう。

・重症患者を診るのはやはり病態生理が非常に大事。

 

By system presentationの型

By system presentation=臓器ごとにプレゼンテーションを行う。

 

   opening statement

患者さんが何で入院してるか、何の治療してるかを端的にあらわします。

「年齢・性別・関係のある基礎疾患」

ICUで管理している主病態」

「どんな治療をして何日目なのか」

 

   over night event

前日の日勤帯終了後から朝までにあった変化を話します。

 「昇圧薬の増減」

「呼吸器設定の変化」

「夜間の緊急の処置や輸血」

「治療方針の大きな変更」など

 

by system

Systemというのは臓器という意味なので臓器別にObjectiveを中心に述べます。基本的には「Objective」を述べるけど、簡単なアセスメント・プランを入れる人もいます。

通常の順番は

★意識

「意識に作用している薬」

…フェンタニルなど麻薬、プロポフォールなど鎮静薬、トランキライザーの使用の有無

「客観的な意識レベル」

…鎮静薬などが使われていなければGCS/JCSをメインに。鎮静薬などが使われていればRASS

「脳幹反射含めた必要な神経所見」

…かわりなければ省いてもいいかもしれません。ただ鎮静下の患者さんであれば毎日確認するのが大事。


★循環

「循環作動薬の種類と量」

…「血圧を上げ下げする薬」「脈を早くしたり遅くしたりする薬」「心収縮に介入する薬」の種類と量。

「輸液投与量」

in/out balance、どんな種類の輸液をどれくらいの速度で投与しているか、尿量(直近数時間の時間尿量と一日尿量)

「診察所見」

…心音、末梢循環が保たれているのか、JVD、わかるのであれば循環の動的パラメーター。

Lacの推移」

 

★呼吸

「呼吸状態」

…挿管していなければ呼吸数&SpO2&酸素投与量、挿管していれば、加えて呼吸器のモード、設定(FiO2、圧、換気回数、PEEPなど)

「診察所見」

…呼吸様式、呼吸音、喀痰の量や質

「レントゲン」

…肺野の状況、チューブ類の確認

「血液ガス所見」

P/FPaO2PaCO2HCO3、必要あればA-aDO2

 

★消化器、栄養

「消化管の状態」

NGチューブの戻りの量、栄養投与量と方法、排便状況(下痢の有無など)

「診察所見」

…腹部膨満の有無、腸蠕動音の有無

「採血結果」

…肝機能の確認

 

★代謝内分泌

「血糖値」

…インスリンの使用状況と血糖値の推移

「相対的副腎不全」

…ステロイドカバーなどしていればここで

 

★腎電解質

「腎機能と尿量」

BUN/Cre、尿量をもう一度

「代謝性の酸塩基平衡障害」

…問題になっていれば述べる

「電解質異常」

…問題がある電解し異常をここで

 

★血液・凝固

「血算」

…血算の推移と輸血していれば輸血の有無

「凝固」

APTTPTFibDDなど

 

★感染

「感染症の原則をもとに」

…必要な背景・診断名(臓器名)・微生物(判明していれば菌名を)・抗菌薬(種類と投与量)をまずのべて、フォローアップすべき項目の改善の有無を述べる

 

★予防、デバイス

ICUでの予防は「DVT」「PPI」「リハビリ」「ルート抜去の可能性確認」は必須。状況によっては「VAP bundle」などの確認も


   プロブレムごとにアセスメント&プラン

これはいつも通りですね。By systemで述べたobjectiveをもとにアセスメントプランをしましょう。

 

実際のカルテ記載とプレゼンテーション

高度糖尿病の既往のある80代男性で右下腿壊死性筋膜炎の広範囲デブリドメント術後3日、VCM 1g12時間ごとおよびMEPM 2g8時間ごと3日目の患者さんです。

Over night eventとしては血圧が次第に上昇してきたため、ドブタミンを漸減中止しています。

By systemですが(温度版や採血結果を供覧しながら)

意識はデクストメトミジン 0.6μg/kg/hr、フェンタニル 20μg/hrの鎮静下で管理されており、GCS E2VTM4で、RASS -2程度です。神経所見に変わりはありません。

循環は前日からのin/outバランスはin3800,out700でプラス3100でした。現在のメインはソルアセト100ml/hr、ノルアドレナリン 0.2γで投与されており血圧は10060程度、脈拍は洞調律80程度で推移しています。心音は特に異常ありません。末梢冷感は軽度で、Lac 14まで改善しています。

呼吸は挿管人工呼吸管理下で、人工呼吸器のモードはPCです。FIO2 0.6, PC 15, PEEP 10, 換気回数18回です。朝の血液ガスですが、上記の条件でph 7.385,pao2 85, paco2 38でした。呼吸音に特に異常ありません。

消化器栄養ですが、現在テルミール200ml13回投与しており、カロリーとしては1200kcalです。肝胆道系酵素に異常は無く、下痢なし、腹部所見も特記事項ありません。

代謝内分泌ですが、昇圧薬抵抗性のseptic shockに対してヒドロコルチゾン200mg/dayの投与をしています。血糖値はスライディングスケールで管理していますが概ね200mg以下で経過しています。

腎電解質は、昨日の尿量は700mlで、直近数時間は30mlhrで出ています。BUN 34.5, Cre 1.54, Na/K/CLは正常です。

血液は輸血は特に行なっていません。WBC 12400, Hb 9.5, Plt 5.2, PT INR 1.87, APTT 43, Fib 434, FDP 28, DD 18です。

感染症は右下腿壊死性筋膜炎に対してVCMおよびMEPMを投与中でday3です。培養結果は未着です。局所所見は浸出液は少なくなってきており、炎症範囲の縮小傾向を認めます。

予防はオメプラゾールの投与、ヘパリンカルシウムの皮下注を行っており、リハビリ介入中です。デバイスですが、右内頸にCV triple、右橈骨動脈にA line8Frのチューブで挿管管理中、NGチューブが右副鼻腔から挿入されていて、いずれもday3です。穿刺部に特に所見はありません。

アセスメントアンドプランですが
# 右下腿壊死性筋膜炎、敗血症性ショック
# DIC
# 急性腎不全
# 急性呼吸不全、ARDS
抗菌薬投与、局所のデブリドマンが奏功していると思われ、昇圧薬の減量、尿量の増加、呼吸器設定の改善を診られています。追加の大幅なデブリドマンは予定していませんが、局所の処置を整形外科に継続していただいています。本日も同様の加療を継続する予定で、weaning, sedation vacationを予定しています。培養結果が出次第deescalationを行います。ヒドロコルチゾンは昇圧薬離脱し次第終了とする予定です。DIC傾向続いていますが原疾患もコントロールされてきており、明確な出血・血栓もないため輸血などの予定はありません。
# つづく。。。。。。。

ここまで終わったらディスカッションです。

(妄想の症例なのでいろいろ抜けてるかもしれませんが、イメージはこんな感じです)

 

重症な患者さんを持ったらやってみましょう!

 


2020年12月12日土曜日

舌咬傷は痙攣とその他の疾患を鑑別できるか? ~横を咬んでるのは痙攣!!ってほんと~

 

 今回の記事で勉強できること

・舌咬傷があることは、痙攣が起こっていたことを示唆する
・横を咬んでいることは、失神からも、偽失神・痙攣(精神的なもの)からも鑑別できる
・舌咬傷がないことは、痙攣を除外しない

 

舌咬傷の頻度

成人の痙攣における舌咬傷は23-27%程度とされている

痙攣における、舌咬傷の感度は30%前後だが、特異度は95%以上!陽性尤度比 8-10!!と非常に有用な所見となっている。

 

成人の失神における舌咬傷は0.6%程度とされている

先端の舌咬傷があると感度 0.11(95%CI 0.04-0.36)、特異度 99.8%(95%CI 98-1)、陽性尤度比 5.32(95%CI 0.257-110)とされている。

 

痙攣と失神における舌咬傷の有用性


痙攣と失神で比べると上記のように頻度が痙攣の方が高いがOR 12.26(95%CI 3.99-37.69)となっている。舌咬傷があることは、そこそこ痙攣の方に鑑別が寄るってことですね。

 

痙攣と偽失神(精神的失神)


痙攣と偽失神・痙攣で比べても舌咬傷は痙攣の方がおおく、OR 3.07(95%CI 1.66-5.68)となっている。ただ、偽失神・痙攣でも、そこそこのケースで舌を咬んでいるため完全な鑑別には使いにくい。

 

舌の咬む位置って重要なの??

舌の横を咬んでいる所見は痙攣に対して

感度 11.3%(95%CI 0.76-1.64)特異度 99.8%(95%CI 97.9-1)陽性尤度比 49.275(95%CI 3.009-806.972)とされており、もし診察で見つければかなり強力な診断根拠となりますね。


舌の横を咬んでいるのは痙攣と偽失神・痙攣を見分けるのに

OR 13.86(95%CI 1.80-106.53)となっている。偽痙攣・失神では舌の横をかんでいることはかなり少なさそう。偽失神・痙攣では、舌の横を咬んでいることはまれで、舌の横を咬んでいれば本物痙攣をより考える所見。

 

まとめてみた感想

こないだの当直の時に「急にうなった後に体が硬直して一点を凝視してるのが数分続いた後に、興奮状態になって家の外まで出て行って排尿した」っていう主訴できた患者さんがいた。「痙攣でしょ」ってなったんだけども、診察してみたら舌の横を咬んでて「こりゃ絶対痙攣でしょ」ってなったんだけども、どれくらい意義がある所見なのかは「先輩からの言い伝え」以上でも以下でもなかったので調べてみた。

やっぱり舌の横を咬んでるのは結構大事な所見なんだな。こういう所見、見つかるとうれしいね。

 

参考文献

Seizure2012 Oct;21(8):568-72
Seizure. 2013 May;22(4):328
Seizure. 2013 Nov;22(9):801
Epilepsy Behav2012 Oct;25(2):251-5

 

2020年12月7日月曜日

心不全には肺エコーを



今回の記事で学べる事

・心不全の診断に非常に有用である
・心不全の重症度やボリューム評価にも有用である
・利尿薬強化するかの判断にも使える

 

論文での推奨

1.     肺エコーにおける心不全での所見は両側で、重力に従って、対称性にInterstitial syndrome and/or Alveolar-interstitial syndrome and/or White lung signがみられる(A1)

2.     心不全の肺水腫を診断するのに肺エコーは有用な手段である(A1)

3.     肺エコーで診断された心不全患者において、日々の肺エコーでのモニタリングは急性期に患者を安定化させるために重要な方法である(A1)

4.     心不全と診断された患者に対する肺エコーはより高リスク患者や死亡率が高い患者を見分けるのに有用である(A1)

5.     心不全と診断された患者において、Bラインの増加は近い将来の心血管イベントの予測因子となる(A1)

6.     Bラインの数は心血管合併症や再入院や死亡率の予測因子/相関因子である(A1)

7.     Bラインの数は心エコーで異常が見つかることと相関している。それゆえBラインがあること自体が心エコーを実施することの指標となる(A1)

8.     治療効果判定をするときには、同じタイプのプローブを用いるのがいい(C1)

9.     Bラインは心不全患者におけるvolume overloadのよいバイオマーカーになる(B1)

10.  心不全において、Bラインの数は肺水腫の重症度、NYHA分類、proBNP値に要相関する(A1)

11.  心不全患者における肺エコーの所見は利尿薬治療を強化するかどうかに有用である(A1)

12.  呼吸困難感を呈する患者においてBラインが認められなければ、心不全は除外され、他の原因を検索すべきである(B1)

13.  肺エコーは心臓由来または肺由来の呼吸困難感を鑑別するのに優れた方法である(A1)

14.  肺エコーは心不全を検出するのに、胸部単純X線写真に比べて有用で、胸部CTと同等程度な方法である(A1)

15.  肺エコーは顕在化したもしくは隠れた心不全を臨床的に評価するのに心エコーを補完する役割を担う

 

ちなみに

Interstitial syndrome3本以上のBラインが1肋間でみられる場所が二か所以上あること。



Alveolar-interstitial syndrome…より密に(7本以上?)Bラインが見える所見。


White lungBラインが融合してLung slidingも見えなくなるくらい肺が白く見えること。



 

 

今回の論文を読んでみて

心不全における肺エコーはかなり推奨度がたかく、診断にも治療にもいろいろ有効なことがわかった。自分のレベルが高くないので引き続き勉強しながら積極的にエコーを当てながら勉強していこうと思った。

 

他の参考サイト、文献

Sonographic Interstitial Syndrome - Soldati - 2009 - Journal of Ultrasound in Medicine - Wiley Online Library

日内会誌 101142914312012


2020年12月2日水曜日

point of care echo ~RUSH~ ショックにエコー?

 Ultrasound Clin 7 (2012) 255–278

この記事で学べる事
・RUSH examとは何か
・PUMP、TANK、PIPEを意識してエコーをあてる
・それぞれでの当て方やチェックポイント





ショックの評価にRASHを使ってみよう。
ポイントは3点セット
PUMP(心臓)、TANK(血管内容量・体腔)、PIPE(大血管)


STEP1 PUMP



心臓の評価をセクタのプローブで
ポイントは心嚢液の貯留収縮の程度右室負荷所見の有無
これらから心タンポナーデ、心原性ショック、PEなどらしさを確認


STEP2


TANKの評価をコンベックスで
ポイントは
外傷でやるときのFASTと一緒
体腔液貯留(出血)の有無とボリュームを見よう
それらから血管内hypoなショック、hyperなショック、出血を鑑別しよう


TANKはFASTに加えてリニアのプローブで
肺エコー
気胸の有無をチェック


STEP3 PIPE
PIPEはコンベックスのプローブで
大動脈瘤がないかを確認しよう


PIPEの最後はリニアのプローブで
DVTをチェック
PEの可能性を検討するのに大事な所見

各ショックとRUSHの所見まとめ
これらの所見を組み合わせてどのショックらしいかを判断します
慣れてくると結構わかりますよ。



どれくらい有用なの?
陽性尤度比も陰性尤度比も結構高いんですよね
まあエコーは術者の技量によるところは大きいのは注意です。


あとがき
RUSHプロトコールは渓仁会時代の大先輩が
最初に教えてくれて以降自分でもやってみてます

今回は現勤務先の病院で研修医の先生に教えてあげたら
見事にスライドにまとめてくれて発表してくれました

実臨床でも結構役に立つ印象が強いので、みなさんもぜひマスターしてくださいね




2020年11月29日日曜日

症状のない高血圧準緊急症をどのようにマネジメントする?

 急性の高血圧症は重篤なものとして以下が知られている

 高血圧緊急症

 高血圧準緊急症(高血圧切迫症)

急病センターで「少しだけ頭が重たい血圧 210/128mmHgの高齢女性」が来て対応に悩んだので勉強しなおしてみました。

今日の記事で勉強できること
 ・高血圧準緊急症に対する治療のEvidenceはあまりないが、下げるのであれば血圧はBP 160/100mmHg以下くらいを目標に内服降圧薬を行うことを検討する。患者の心血管・脳血管リスクなどにより判断していくしかない。
    ★Uptodateは比較的下げることを推奨しているような記載
    ★American College of Emergency PhysiciansやJournal of Hospital medicineではあまり下げないことを推奨している。
 ・クロニジンやカプトプリルのような短時間作用型が使われることが多いが、アムロジピンのような長時間作用型を選択するDrもいる。


★高血圧緊急症(Hypertensive emergencies)とは
 
BP 180/120mmHgを超えて以下のような臓器障害を伴うものを高血圧緊急症という

関連する臓器障害は
心血管が50%くらい
脳血管/脳症が全部で40%くらい
やっぱり心臓か脳なんですね。


症状ない高血圧の時にどこまで検査するか悩みますよね。。。

高血圧準緊急症(Hypertensive urgencies)とは
 BP 180/120mmHg以上で軽度の頭痛を除いて、臓器障害を伴わないもの

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

ここからは高血圧準緊急症についてのお話です。
結局のところHigh qualitiyなエビデンスはなく、あくまでも筆者らの推奨


血圧をさげるかどうかは非常に悩ましい
救急外来にくるような無症状の重度高血圧症の患者の降圧は有効性が証明されていない。静かな部屋で30分寝かせておくだけで30%の患者が20/10mmHg以上さがる
降圧で虚血が起こることもあるので、結局はリスクベネフィットを勘案して決める

ここまでの前提をもとに

Up to dateでは
基礎に高血圧がある場合など含めて、どちらかというと血圧を下げることを検討するような旨の記述がされている。大動脈瘤や脳動脈瘤があることがわかっている患者などは積極的に降圧する。ニフェジピンの舌下投与はすべきでない(アダラートの脱カプセルですね!)。下げるならBP 160/100mmHg以下くらいを目標に、ただし最初の数時間で平均動脈圧が25-30%以上は下がらないように注意する。使う薬は使う薬剤はクロニジンまたはカプトプリルのような短時間作用型が好まれる。ただしアムロジピンなどの長時間作用型を使うDrもいる。
 処方例
 ★カプトプリル     6.25-12.5mg p.o.
 ★ニフェジピンCR 30mg p.o.
 ★メトプロロール  50mg p.o.

American College of Emergency Physiciansでは
検査に関してはLevel Cの推奨として①ルーチンの臓器障害のスクリーニングは不要、②フォローアップが出来なさそうな人の場合には主に腎機能のスクリーニングを検討(それが入院させるかに影響することがある)とされ、治療に関してはLevel Cの推奨として①ルーチンでの投薬は不要、②フォローアップが出来なさそうな人の場合には慢性の高血圧の治療の一つとして長時間作用型での治療を検討、③いずれにせよ外来でのフォローは必要とされています。

Journal of Hospital medicineでは
基本的には病歴、身体所見のみで大丈夫で検査がいることは限られたケースのみ。臓器障害を疑う所見がなく無症状の場合には安心させ安静にさせて再度アセスメントするべし。rapid actingな降圧薬の内服や静注降圧薬は使用しないように。外来でコントロール不良な高血圧がある場合や高血圧として治療されていなかった患者の場合には慢性期の治療として長時間作用型の降圧薬を検討する


フォローについて
 数時間外来でフォローしたのち、帰宅できるケースが多い。
 治療するにしてもしないにしても、かかりつけや自院での翌日の受診を強く促す


まとめてみた感想としては
とりあえず救急外来で高血圧準緊急症をみたら

 静かなベッドに30分-1時間安静に横になってもらい再検査
 それで大丈夫ならばフォロー方法を決めて帰宅
 だめならベースに高血圧あるか、コンプライアンスどうか、出血梗塞リスクなどを検討しリスクベネフィットをよく勘案して治療するか決める


あとがき
いやー。かなり見る文献によって印象が違いますね。どこまでも悩ましいんだなと思いました。投与するならやはり僕はアムロジピン2.5mgの内服を出すことが多い気がします。ベースに高血圧ない人は抗不安薬を投与することもありますが、抗不安薬といったものは記載があまりありませんでしたねー。


参考文献
Up to date:Management of sever asymptomatic hypertension
日内会誌 104:268-274,2015
Hypertensive emergencies CCSAP 2018 Book1 Medical issues in the ICU
J. Hosp. Med. 2018 December;13(12):860-862
Ann Emerg Med. 2013;62:59-68.










2020年11月22日日曜日

虫垂炎は手術なの?保存的なの?

 

N Engl J Med. Nov 12; 383(20):1907-1919

この論文のポイント

・30日後のEQ-5Dスコア(QOLスコア)は両群で同等であった。
・抗菌薬グループは合併症が多(8.1% くvs 3.6% RR 2.28; 95%CI 1.30-3.98)、29%が90日以内に最終的に手術された。
・合併症は抗菌薬グループで多かった(2.28;95%CI 1.3-3.98)が、重篤な合併症は抗菌薬グループで4%、手術グループで3%(RR 1.29; 95%CI 0.67-2.50)であった。


論文を読む前にUptodateの推奨を確認すると
 穿孔していない症例で、耐術能に問題がない場合は手術を推奨
 耐術能に問題がある場合は、点滴抗菌薬で開始して改善すれば保存、しなければ手術


試験デザイン
救急病院において、虫垂炎を抗菌薬加療群と手術群の非盲検、非劣勢のRCT
Inclusion criteria
 ・画像検査で虫垂炎と確定診断された18歳以上
 ・回盲部炎は合併症のリスクが高いことが知られており、Prespecified subgroup(事前に知らされたサブグループ)に分類された。

Exclusion criteria
 ・敗血症性ショック
 ・汎発性腹膜炎
 ・虫垂炎再発者
 ・重度の炎症がCT上あるもの(術者が広範な手術が必要と判断したもの)
 ・膿瘍形成/free air
 ・悪性腫瘍が疑われる


試験に参加した患者は平均38歳、やや男性が多い。
並存疾患はほとんどない人たちで、80%がCTで診断されている。

Primary outcome
 ・EQ5DスコアというQOLスコアの非劣勢

Secondary outcome
 ・患者から聴取した疼痛、発熱などの症状の改善
 ・NSQIPに定められた合併症の発症

治療
抗菌薬加療群
 ・最初の24時間は経静脈的に抗菌薬投与、以降は内服として計10日間
  ※手術は経過中に以下を認めた場合に推奨された。
    ・汎発性腹膜炎が疑われる    
    ・敗血症性ショックになる
    ・治療開始後48時間以降に症状や所見の悪化がある
    ・必ずしも上記を満たさなくても手術になる症例も認めた

手術療法群
 ・腹腔鏡下もしくは開腹での手術が行われた


結果
Primary outcome ITT解析されている

QOLスコアは抗菌薬群、手術群で有意差なし。
症状がとれるのは30日まで見ても両群であまり変わらないらしい。

抗菌薬治療群での手術の累積実施割合。
圧倒的に最初の48時間以内が多くてそれ以降はあまり増加しない

Secondary outcome

重篤な合併症に関しては両群で差がみられない(1.29;95%CI 0.67-2.5)
NSQIPに定義される合併症は抗菌薬群で多い(2.28;95%CI 1.3-3.98)
膿瘍ドレナージを要した症例が抗菌薬群で多い(21.36;95%CI 2.86-159)


論文を読んだ感想
虫垂炎に関しては、局所炎症がひどくない場合や穿孔などがなければ抗菌薬での保存的加療が選択でき、QOL的には手術群と大差ない結果だった。
抗菌薬治療群の方も最終的に手術に29%がなっているので、3人に2人は手術を回避できるということだろう。ただ、合併症などは抗菌薬治療群の方が多い傾向にあるのも悩ましいところ。




2020年11月21日土曜日

Semantic Qualifierを使いこなせてますか?

このチャプターのLearning point
・Semantic Qualifierを知ろう
・患者さんの訴えや病歴を、鑑別のフレームに落とし込める「言葉」
にしよう。
・鑑別診断の「フレーム」を意識して、Semantic Qualifierをうまく使えるようになろう。

George Bordageさんが提唱した概念で
"抽象的で、対義的な言葉を使って、患者情報をまとめるて整理する"こと。
患者さんの訴えや情報などを普遍的な(抽象化して)、そしてなるべく対のあるような言葉に置き換えること。
鑑別診断や疾患の想起の際のキーワードとなるものを当てはめていく作業になる。
臨床推論の質を高めるとされていて、診断の正確さが有意差はないものの増加する傾向があるとされる。

例えば言葉で言うと以下のようなものがある(対になってるのがポイント)
高齢    vs     若年
急性    vs             慢性
持続性   vs             間欠性                 
単発性   vs             多発性
繰り返す  vs             初めての
安静時   vs             労作時
e.t.c…



たとえば、痛風を考えている患者さんのプレゼンをしてみると、

Semantic Qualifierを意識していないと
「前にも同じ症状があった、78歳女性が昨日から左足の親指の付け根が腫れて痛いことを主訴に受診した。」


なんかぼやけてますよね。Semantic Qualifierを意識してやると
「これまで同様の間欠的な発作を繰り返す高齢女性が、昨日からの急性発症の左第一趾MCP関節の単関節炎で受診した」


「間欠的⇔持続的」「繰り返す⇔単回の」「急性発症⇔緩徐発症」「単関節炎⇔多関節炎」
こういったwordを意識します。

このSemantic Qualifierを意識したプレゼンテーションをされると、"痛風"以外の鑑別をあげることがむつかしいですね。そして「"急性"の"単関節炎"」の鑑別というフレームになるので鑑別も考えやすくなりますね。逆に言うと、どういったワードで鑑別のフレームを作るのかという覚え方も大事かもしれません。

ぜひぜひ使ってみてくださいねー。
鑑別診断のフレーム法は森川先生の「総合内科 ただいま診断中!」もとっても勉強になりますので読んだことない人はみてみるとよいですよー。

参考文献
日本内科学会雑誌 106 12 2562-2567など
Medical Education.2002, vol.36,p 760-766
Acad Med 1998, 73(Suppl19):S109-S111
横浜医学, 69, 37-45(2018)
N Engl J Med 2006;355:2217-25.
Principles and Practice of Case-based Clinical Reasoning Education, Innovation and Change in Professional Education 15, Chapter 3

記事記録
2020.11.21 update