今日の記事でわかること
・重症患者さんのカルテの書き方とプレゼンテーションの仕方
・普段のSOAPとは違った、By system=臓器ごとに患者さんを診ていくやり方。意識→呼吸→循環→。。。と患者さんの状態を整理しよう。重症患者さんの把握と集中治療医との状況の共有をスムーズに行えるようになろう。
・重症患者を診るのはやはり病態生理が非常に大事。
By system presentationの型
By system
presentation=臓器ごとにプレゼンテーションを行う。
①
opening statement
患者さんが何で入院してるか、何の治療してるかを端的にあらわします。
「年齢・性別・関係のある基礎疾患」
「ICUで管理している主病態」
「どんな治療をして何日目なのか」
②
over night event
前日の日勤帯終了後から朝までにあった変化を話します。
「昇圧薬の増減」
「呼吸器設定の変化」
「夜間の緊急の処置や輸血」
「治療方針の大きな変更」など
③by system
Systemというのは臓器という意味なので臓器別にObjectiveを中心に述べます。基本的には「Objective」を述べるけど、簡単なアセスメント・プランを入れる人もいます。
通常の順番は
★意識
「意識に作用している薬」
…フェンタニルなど麻薬、プロポフォールなど鎮静薬、トランキライザーの使用の有無
「客観的な意識レベル」
…鎮静薬などが使われていなければGCS/JCSをメインに。鎮静薬などが使われていればRASSも
「脳幹反射含めた必要な神経所見」
…かわりなければ省いてもいいかもしれません。ただ鎮静下の患者さんであれば毎日確認するのが大事。
★循環
「循環作動薬の種類と量」
…「血圧を上げ下げする薬」「脈を早くしたり遅くしたりする薬」「心収縮に介入する薬」の種類と量。
「輸液投与量」
…in/out
balance、どんな種類の輸液をどれくらいの速度で投与しているか、尿量(直近数時間の時間尿量と一日尿量)。
「診察所見」
…心音、末梢循環が保たれているのか、JVD、わかるのであれば循環の動的パラメーター。
「Lacの推移」
★呼吸
「呼吸状態」
…挿管していなければ呼吸数&SpO2&酸素投与量、挿管していれば、加えて呼吸器のモード、設定(FiO2、圧、換気回数、PEEPなど)
「診察所見」
…呼吸様式、呼吸音、喀痰の量や質
「レントゲン」
…肺野の状況、チューブ類の確認
「血液ガス所見」
…P/F、PaO2、PaCO2、HCO3、必要あればA-aDO2
★消化器、栄養
「消化管の状態」
…NGチューブの戻りの量、栄養投与量と方法、排便状況(下痢の有無など)
「診察所見」
…腹部膨満の有無、腸蠕動音の有無
「採血結果」
…肝機能の確認
★代謝内分泌
「血糖値」
…インスリンの使用状況と血糖値の推移
「相対的副腎不全」
…ステロイドカバーなどしていればここで
★腎電解質
「腎機能と尿量」
…BUN/Cre、尿量をもう一度
「代謝性の酸塩基平衡障害」
…問題になっていれば述べる
「電解質異常」
…問題がある電解し異常をここで
★血液・凝固
「血算」
…血算の推移と輸血していれば輸血の有無
「凝固」
…APTT、PT、Fib、DDなど
★感染
「感染症の原則をもとに」
…必要な背景・診断名(臓器名)・微生物(判明していれば菌名を)・抗菌薬(種類と投与量)をまずのべて、フォローアップすべき項目の改善の有無を述べる
★予防、デバイス
ICUでの予防は「DVT」「PPI」「リハビリ」「ルート抜去の可能性確認」は必須。状況によっては「VAP bundle」などの確認も
③
プロブレムごとにアセスメント&プラン
これはいつも通りですね。By
systemで述べたobjectiveをもとにアセスメントプランをしましょう。
実際のカルテ記載とプレゼンテーション
高度糖尿病の既往のある80代男性で右下腿壊死性筋膜炎の広範囲デブリドメント術後3日、VCM 1g12時間ごとおよびMEPM
2g8時間ごと3日目の患者さんです。
Over night eventとしては血圧が次第に上昇してきたため、ドブタミンを漸減中止しています。
By systemですが(温度版や採血結果を供覧しながら)
意識はデクストメトミジン
0.6μg/kg/hr、フェンタニル 20μg/hrの鎮静下で管理されており、GCS E2VTM4で、RASS -2程度です。神経所見に変わりはありません。
循環は前日からのin/outバランスはinが3800,outが700でプラス3100でした。現在のメインはソルアセト100ml/hr、ノルアドレナリン 0.2γで投与されており血圧は100/60程度、脈拍は洞調律80程度で推移しています。心音は特に異常ありません。末梢冷感は軽度で、Lac 14まで改善しています。
呼吸は挿管人工呼吸管理下で、人工呼吸器のモードはPCです。FIO2 0.6, PC 15, PEEP 10, 換気回数18回です。朝の血液ガスですが、上記の条件でph 7.385,pao2 85,
paco2 38でした。呼吸音に特に異常ありません。
消化器栄養ですが、現在テルミール200mlを1日3回投与しており、カロリーとしては1200kcalです。肝胆道系酵素に異常は無く、下痢なし、腹部所見も特記事項ありません。
代謝内分泌ですが、昇圧薬抵抗性のseptic shockに対してヒドロコルチゾン200mg/dayの投与をしています。血糖値はスライディングスケールで管理していますが概ね200mg以下で経過しています。
腎電解質は、昨日の尿量は700mlで、直近数時間は30ml/hrで出ています。BUN
34.5, Cre 1.54, Na/K/CLは正常です。
血液は輸血は特に行なっていません。WBC 12400, Hb 9.5, Plt 5.2万, PT INR 1.87,
APTT 43, Fib 434, FDP 28, DD 18です。
感染症は右下腿壊死性筋膜炎に対してVCMおよびMEPMを投与中でday3です。培養結果は未着です。局所所見は浸出液は少なくなってきており、炎症範囲の縮小傾向を認めます。
予防はオメプラゾールの投与、ヘパリンカルシウムの皮下注を行っており、リハビリ介入中です。デバイスですが、右内頸にCV triple、右橈骨動脈にA line、8Frのチューブで挿管管理中、NGチューブが右副鼻腔から挿入されていて、いずれもday3です。穿刺部に特に所見はありません。
アセスメントアンドプランですが
# 右下腿壊死性筋膜炎、敗血症性ショック
# DIC
# 急性腎不全
# 急性呼吸不全、ARDS
抗菌薬投与、局所のデブリドマンが奏功していると思われ、昇圧薬の減量、尿量の増加、呼吸器設定の改善を診られています。追加の大幅なデブリドマンは予定していませんが、局所の処置を整形外科に継続していただいています。本日も同様の加療を継続する予定で、weaning, sedation vacationを予定しています。培養結果が出次第deescalationを行います。ヒドロコルチゾンは昇圧薬離脱し次第終了とする予定です。DIC傾向続いていますが原疾患もコントロールされてきており、明確な出血・血栓もないため輸血などの予定はありません。
# つづく。。。。。。。
ここまで終わったらディスカッションです。
(妄想の症例なのでいろいろ抜けてるかもしれませんが、イメージはこんな感じです)。
重症な患者さんを持ったらやってみましょう!