2020年12月27日日曜日

By systemでのカルテの書き方とプレゼンテーション


 

今日の記事でわかること

・重症患者さんのカルテの書き方とプレゼンテーションの仕方

・普段のSOAPとは違った、By system=臓器ごとに患者さんを診ていくやり方。意識→呼吸→循環→。。。と患者さんの状態を整理しよう。重症患者さんの把握と集中治療医との状況の共有をスムーズに行えるようになろう。

・重症患者を診るのはやはり病態生理が非常に大事。

 

By system presentationの型

By system presentation=臓器ごとにプレゼンテーションを行う。

 

   opening statement

患者さんが何で入院してるか、何の治療してるかを端的にあらわします。

「年齢・性別・関係のある基礎疾患」

ICUで管理している主病態」

「どんな治療をして何日目なのか」

 

   over night event

前日の日勤帯終了後から朝までにあった変化を話します。

 「昇圧薬の増減」

「呼吸器設定の変化」

「夜間の緊急の処置や輸血」

「治療方針の大きな変更」など

 

by system

Systemというのは臓器という意味なので臓器別にObjectiveを中心に述べます。基本的には「Objective」を述べるけど、簡単なアセスメント・プランを入れる人もいます。

通常の順番は

★意識

「意識に作用している薬」

…フェンタニルなど麻薬、プロポフォールなど鎮静薬、トランキライザーの使用の有無

「客観的な意識レベル」

…鎮静薬などが使われていなければGCS/JCSをメインに。鎮静薬などが使われていればRASS

「脳幹反射含めた必要な神経所見」

…かわりなければ省いてもいいかもしれません。ただ鎮静下の患者さんであれば毎日確認するのが大事。


★循環

「循環作動薬の種類と量」

…「血圧を上げ下げする薬」「脈を早くしたり遅くしたりする薬」「心収縮に介入する薬」の種類と量。

「輸液投与量」

in/out balance、どんな種類の輸液をどれくらいの速度で投与しているか、尿量(直近数時間の時間尿量と一日尿量)

「診察所見」

…心音、末梢循環が保たれているのか、JVD、わかるのであれば循環の動的パラメーター。

Lacの推移」

 

★呼吸

「呼吸状態」

…挿管していなければ呼吸数&SpO2&酸素投与量、挿管していれば、加えて呼吸器のモード、設定(FiO2、圧、換気回数、PEEPなど)

「診察所見」

…呼吸様式、呼吸音、喀痰の量や質

「レントゲン」

…肺野の状況、チューブ類の確認

「血液ガス所見」

P/FPaO2PaCO2HCO3、必要あればA-aDO2

 

★消化器、栄養

「消化管の状態」

NGチューブの戻りの量、栄養投与量と方法、排便状況(下痢の有無など)

「診察所見」

…腹部膨満の有無、腸蠕動音の有無

「採血結果」

…肝機能の確認

 

★代謝内分泌

「血糖値」

…インスリンの使用状況と血糖値の推移

「相対的副腎不全」

…ステロイドカバーなどしていればここで

 

★腎電解質

「腎機能と尿量」

BUN/Cre、尿量をもう一度

「代謝性の酸塩基平衡障害」

…問題になっていれば述べる

「電解質異常」

…問題がある電解し異常をここで

 

★血液・凝固

「血算」

…血算の推移と輸血していれば輸血の有無

「凝固」

APTTPTFibDDなど

 

★感染

「感染症の原則をもとに」

…必要な背景・診断名(臓器名)・微生物(判明していれば菌名を)・抗菌薬(種類と投与量)をまずのべて、フォローアップすべき項目の改善の有無を述べる

 

★予防、デバイス

ICUでの予防は「DVT」「PPI」「リハビリ」「ルート抜去の可能性確認」は必須。状況によっては「VAP bundle」などの確認も


   プロブレムごとにアセスメント&プラン

これはいつも通りですね。By systemで述べたobjectiveをもとにアセスメントプランをしましょう。

 

実際のカルテ記載とプレゼンテーション

高度糖尿病の既往のある80代男性で右下腿壊死性筋膜炎の広範囲デブリドメント術後3日、VCM 1g12時間ごとおよびMEPM 2g8時間ごと3日目の患者さんです。

Over night eventとしては血圧が次第に上昇してきたため、ドブタミンを漸減中止しています。

By systemですが(温度版や採血結果を供覧しながら)

意識はデクストメトミジン 0.6μg/kg/hr、フェンタニル 20μg/hrの鎮静下で管理されており、GCS E2VTM4で、RASS -2程度です。神経所見に変わりはありません。

循環は前日からのin/outバランスはin3800,out700でプラス3100でした。現在のメインはソルアセト100ml/hr、ノルアドレナリン 0.2γで投与されており血圧は10060程度、脈拍は洞調律80程度で推移しています。心音は特に異常ありません。末梢冷感は軽度で、Lac 14まで改善しています。

呼吸は挿管人工呼吸管理下で、人工呼吸器のモードはPCです。FIO2 0.6, PC 15, PEEP 10, 換気回数18回です。朝の血液ガスですが、上記の条件でph 7.385,pao2 85, paco2 38でした。呼吸音に特に異常ありません。

消化器栄養ですが、現在テルミール200ml13回投与しており、カロリーとしては1200kcalです。肝胆道系酵素に異常は無く、下痢なし、腹部所見も特記事項ありません。

代謝内分泌ですが、昇圧薬抵抗性のseptic shockに対してヒドロコルチゾン200mg/dayの投与をしています。血糖値はスライディングスケールで管理していますが概ね200mg以下で経過しています。

腎電解質は、昨日の尿量は700mlで、直近数時間は30mlhrで出ています。BUN 34.5, Cre 1.54, Na/K/CLは正常です。

血液は輸血は特に行なっていません。WBC 12400, Hb 9.5, Plt 5.2, PT INR 1.87, APTT 43, Fib 434, FDP 28, DD 18です。

感染症は右下腿壊死性筋膜炎に対してVCMおよびMEPMを投与中でday3です。培養結果は未着です。局所所見は浸出液は少なくなってきており、炎症範囲の縮小傾向を認めます。

予防はオメプラゾールの投与、ヘパリンカルシウムの皮下注を行っており、リハビリ介入中です。デバイスですが、右内頸にCV triple、右橈骨動脈にA line8Frのチューブで挿管管理中、NGチューブが右副鼻腔から挿入されていて、いずれもday3です。穿刺部に特に所見はありません。

アセスメントアンドプランですが
# 右下腿壊死性筋膜炎、敗血症性ショック
# DIC
# 急性腎不全
# 急性呼吸不全、ARDS
抗菌薬投与、局所のデブリドマンが奏功していると思われ、昇圧薬の減量、尿量の増加、呼吸器設定の改善を診られています。追加の大幅なデブリドマンは予定していませんが、局所の処置を整形外科に継続していただいています。本日も同様の加療を継続する予定で、weaning, sedation vacationを予定しています。培養結果が出次第deescalationを行います。ヒドロコルチゾンは昇圧薬離脱し次第終了とする予定です。DIC傾向続いていますが原疾患もコントロールされてきており、明確な出血・血栓もないため輸血などの予定はありません。
# つづく。。。。。。。

ここまで終わったらディスカッションです。

(妄想の症例なのでいろいろ抜けてるかもしれませんが、イメージはこんな感じです)

 

重症な患者さんを持ったらやってみましょう!

 


2020年12月12日土曜日

舌咬傷は痙攣とその他の疾患を鑑別できるか? ~横を咬んでるのは痙攣!!ってほんと~

 

 今回の記事で勉強できること

・舌咬傷があることは、痙攣が起こっていたことを示唆する
・横を咬んでいることは、失神からも、偽失神・痙攣(精神的なもの)からも鑑別できる
・舌咬傷がないことは、痙攣を除外しない

 

舌咬傷の頻度

成人の痙攣における舌咬傷は23-27%程度とされている

痙攣における、舌咬傷の感度は30%前後だが、特異度は95%以上!陽性尤度比 8-10!!と非常に有用な所見となっている。

 

成人の失神における舌咬傷は0.6%程度とされている

先端の舌咬傷があると感度 0.11(95%CI 0.04-0.36)、特異度 99.8%(95%CI 98-1)、陽性尤度比 5.32(95%CI 0.257-110)とされている。

 

痙攣と失神における舌咬傷の有用性


痙攣と失神で比べると上記のように頻度が痙攣の方が高いがOR 12.26(95%CI 3.99-37.69)となっている。舌咬傷があることは、そこそこ痙攣の方に鑑別が寄るってことですね。

 

痙攣と偽失神(精神的失神)


痙攣と偽失神・痙攣で比べても舌咬傷は痙攣の方がおおく、OR 3.07(95%CI 1.66-5.68)となっている。ただ、偽失神・痙攣でも、そこそこのケースで舌を咬んでいるため完全な鑑別には使いにくい。

 

舌の咬む位置って重要なの??

舌の横を咬んでいる所見は痙攣に対して

感度 11.3%(95%CI 0.76-1.64)特異度 99.8%(95%CI 97.9-1)陽性尤度比 49.275(95%CI 3.009-806.972)とされており、もし診察で見つければかなり強力な診断根拠となりますね。


舌の横を咬んでいるのは痙攣と偽失神・痙攣を見分けるのに

OR 13.86(95%CI 1.80-106.53)となっている。偽痙攣・失神では舌の横をかんでいることはかなり少なさそう。偽失神・痙攣では、舌の横を咬んでいることはまれで、舌の横を咬んでいれば本物痙攣をより考える所見。

 

まとめてみた感想

こないだの当直の時に「急にうなった後に体が硬直して一点を凝視してるのが数分続いた後に、興奮状態になって家の外まで出て行って排尿した」っていう主訴できた患者さんがいた。「痙攣でしょ」ってなったんだけども、診察してみたら舌の横を咬んでて「こりゃ絶対痙攣でしょ」ってなったんだけども、どれくらい意義がある所見なのかは「先輩からの言い伝え」以上でも以下でもなかったので調べてみた。

やっぱり舌の横を咬んでるのは結構大事な所見なんだな。こういう所見、見つかるとうれしいね。

 

参考文献

Seizure2012 Oct;21(8):568-72
Seizure. 2013 May;22(4):328
Seizure. 2013 Nov;22(9):801
Epilepsy Behav2012 Oct;25(2):251-5

 

2020年12月7日月曜日

心不全には肺エコーを



今回の記事で学べる事

・心不全の診断に非常に有用である
・心不全の重症度やボリューム評価にも有用である
・利尿薬強化するかの判断にも使える

 

論文での推奨

1.     肺エコーにおける心不全での所見は両側で、重力に従って、対称性にInterstitial syndrome and/or Alveolar-interstitial syndrome and/or White lung signがみられる(A1)

2.     心不全の肺水腫を診断するのに肺エコーは有用な手段である(A1)

3.     肺エコーで診断された心不全患者において、日々の肺エコーでのモニタリングは急性期に患者を安定化させるために重要な方法である(A1)

4.     心不全と診断された患者に対する肺エコーはより高リスク患者や死亡率が高い患者を見分けるのに有用である(A1)

5.     心不全と診断された患者において、Bラインの増加は近い将来の心血管イベントの予測因子となる(A1)

6.     Bラインの数は心血管合併症や再入院や死亡率の予測因子/相関因子である(A1)

7.     Bラインの数は心エコーで異常が見つかることと相関している。それゆえBラインがあること自体が心エコーを実施することの指標となる(A1)

8.     治療効果判定をするときには、同じタイプのプローブを用いるのがいい(C1)

9.     Bラインは心不全患者におけるvolume overloadのよいバイオマーカーになる(B1)

10.  心不全において、Bラインの数は肺水腫の重症度、NYHA分類、proBNP値に要相関する(A1)

11.  心不全患者における肺エコーの所見は利尿薬治療を強化するかどうかに有用である(A1)

12.  呼吸困難感を呈する患者においてBラインが認められなければ、心不全は除外され、他の原因を検索すべきである(B1)

13.  肺エコーは心臓由来または肺由来の呼吸困難感を鑑別するのに優れた方法である(A1)

14.  肺エコーは心不全を検出するのに、胸部単純X線写真に比べて有用で、胸部CTと同等程度な方法である(A1)

15.  肺エコーは顕在化したもしくは隠れた心不全を臨床的に評価するのに心エコーを補完する役割を担う

 

ちなみに

Interstitial syndrome3本以上のBラインが1肋間でみられる場所が二か所以上あること。



Alveolar-interstitial syndrome…より密に(7本以上?)Bラインが見える所見。


White lungBラインが融合してLung slidingも見えなくなるくらい肺が白く見えること。



 

 

今回の論文を読んでみて

心不全における肺エコーはかなり推奨度がたかく、診断にも治療にもいろいろ有効なことがわかった。自分のレベルが高くないので引き続き勉強しながら積極的にエコーを当てながら勉強していこうと思った。

 

他の参考サイト、文献

Sonographic Interstitial Syndrome - Soldati - 2009 - Journal of Ultrasound in Medicine - Wiley Online Library

日内会誌 101142914312012


2020年12月2日水曜日

point of care echo ~RUSH~ ショックにエコー?

 Ultrasound Clin 7 (2012) 255–278

この記事で学べる事
・RUSH examとは何か
・PUMP、TANK、PIPEを意識してエコーをあてる
・それぞれでの当て方やチェックポイント





ショックの評価にRASHを使ってみよう。
ポイントは3点セット
PUMP(心臓)、TANK(血管内容量・体腔)、PIPE(大血管)


STEP1 PUMP



心臓の評価をセクタのプローブで
ポイントは心嚢液の貯留収縮の程度右室負荷所見の有無
これらから心タンポナーデ、心原性ショック、PEなどらしさを確認


STEP2


TANKの評価をコンベックスで
ポイントは
外傷でやるときのFASTと一緒
体腔液貯留(出血)の有無とボリュームを見よう
それらから血管内hypoなショック、hyperなショック、出血を鑑別しよう


TANKはFASTに加えてリニアのプローブで
肺エコー
気胸の有無をチェック


STEP3 PIPE
PIPEはコンベックスのプローブで
大動脈瘤がないかを確認しよう


PIPEの最後はリニアのプローブで
DVTをチェック
PEの可能性を検討するのに大事な所見

各ショックとRUSHの所見まとめ
これらの所見を組み合わせてどのショックらしいかを判断します
慣れてくると結構わかりますよ。



どれくらい有用なの?
陽性尤度比も陰性尤度比も結構高いんですよね
まあエコーは術者の技量によるところは大きいのは注意です。


あとがき
RUSHプロトコールは渓仁会時代の大先輩が
最初に教えてくれて以降自分でもやってみてます

今回は現勤務先の病院で研修医の先生に教えてあげたら
見事にスライドにまとめてくれて発表してくれました

実臨床でも結構役に立つ印象が強いので、みなさんもぜひマスターしてくださいね